2021年9月に松山市の地盤調査会社が発表した、元社員の地盤調査のデータ改ざんが波紋を呼びました。ここで問題となるのは、地盤調査の責任は誰が取るのかということです。
この記事では、建築士法に基づいた責任の所在を解説していきます。また、建築士が訴訟された事例・判例も紹介します。地盤調査を行う際には、建築士にまで責任が及ぶこともあることをよく理解しておきましょう。
建築士法20条によると「一級建築士、二級建築士又は木造建築士は、設計を行った場合においては、その設計図書に一級建築士、二級建築士又は木造建築士である旨の表示をして記名及び押印をしなければならない。設計図書の一部を変更した場合も同様とする」となっています。
地盤の設計においては、地盤調査会社が設計の再委託先として設計図書に記名押印をしていれば、地盤調査会社が建築士法上の設計者として責任を負います。ただし、地盤調査会社が記名押印をしていない場合には、建築士法上の「設計者」は地盤調査会社ではなく、「設計補助者」に該当します。よって、地盤調査会社は設計の最終的な責任を負うものには当たらないことになります。
平成20年、建築士法24条の7、建築士法施行規則22条が改正され、「責任の所在を明確化する」という強い意志が反映されたものとなっています。
昨今の建築設計における分業体制で起きた、構造計算偽装事件などが社会問題となったことへの責任の明確化を図るためものです。
つまり対外的な設計責任者として建築士など有資格社の名前が明示されているのに、設計補助者が責任の大部分を負うのは、建築士法によってあらかじめ明示している最終的な設計責任の所在が趣旨に反することになります。
したがって、有資格者である建築士への信頼を基礎として行われる法令適合性や建築主の要求への適合性は、分業体制において責任の所在を明確にする目的があると言えます。
建築士法3条によって建築士は業務独占資格とされています。これは、設計補助者の有無に関わらず、設計業務を建築士に独占させることで、設計の品質を担保するためです。
建築士の責任は重くなりますが、資格が必要な業務の遂行を許され、自己責任で設計補助者を使用できます。そのため、最終的な責任を設計補助者に負わせることは建築士の有利となり、設計補助者の地位を危うくする側面もあるため、建築士法と両立しないことになります。
日本建築学会編『建築基礎設計のための地盤調査計画指針・第2版』には、「調査計画もしくは基礎の設計について、設計者が行うものとする」「基礎の選定や設計は、設計者の責任持って行う。そのため、調査計画についても設計者の責任で行う必要がある」「地盤調査業者は設計者の指示を受けて調査試験を実施する。設計施工に必要な土性を正確に把握したうえで、設計者に示す業務がある」などと記載があります。
地盤調査会社が提案する工法は、あくまでも参考資料です。責任は設計者にあるとしています。
設計施工者が地盤調査会社に調査を依頼し、その結果に基づいて土地を造成したところ不同沈下が生じた案件では、地盤調査会社には責任がないという判決が出ました。平成11年9月30日、浦和地裁越川支部でのことです。
この判決では、地盤調査業務は設計補助業務であり、調査方法を決めるのも、調査結果から施工を判断するのも設計施工者の責任であると判断されました。最終的な設計の責任は設計者にあるという、建築士法の趣旨に沿った見解が基礎となっています。
地盤調査会社が複数の地盤改良工事方法を提案したところ、元請会社が安価な工事方法を選択して事故となった案件では、工事の発注者である元請人が設計内容の選択者と判断されました。平成21年7月28日の東京地裁の判決です。
ここでのポイントは、安い工法でも施工できると提案した地盤調査会社の責任を否定していること。例え地盤調査会社が提案した内容であっても、設計者には地盤も含めた建物について最終的な責任を負う立場であることを示しています。
軟弱な地盤の上に建設された建物の床が沈下したことに対し、建築士に約3800万円の損害賠償を命じる判決が下されました。平成15年12月25日、宇都宮地裁のことです。
敷地は沖積低地で、建設前は水田。建設前に地質調査会社に依頼した調査では、建物を直接基礎とするのは不適当であり、深さ7.6m以上の砂れき層を支持層として杭基礎を採用することを推奨していました。
建築士は深さ8.15mの杭基礎を採用したものの、大部分は建物の中心部に設置されておらず、中央部の土間コンクリー床は直接床に接していました。建築士は報告書のデータをもとに、建築基準法施行令93条と同法建設省告示111合、日本建築学会の建築基礎構造設計指針のいずれの基準も満たす設計を行ったと主張しましたが、建物が沈下する危険性は地盤調査から容易に予見できたはずで、土間コンクリートの基礎にも杭基礎と地中梁を採用していれば床の沈下を防ぐことができたとして、建築士の主張を退けました。
2020年4月1日に施工された改正民法では、従来の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へ変わりました。
注文住宅の建築では、竣工した建物に契約との相違が見つかった場合、施工業者が施主に対して法的責任を負います。
契約内容との相違とは、「品目が異なる」「数量が過剰または不足している」「契約上の品質が劣っている」場合であり、契約不適合責任を問われることになります。以下の記事で詳しい内容を紹介します。