四国エリアでの建築プロジェクトにおいて、避けて通れないのが「活断層」への対応です。大規模な地震を引き起こす可能性のみならず、断層周辺特有の不安定な地質構造は、不同沈下や地盤保証の免責といった建築業務におけるリスクを孕んでいます。
本記事では、建設会社や設計・施工に携わる皆様に向けて、知見と法規制に基づいたリスク管理のポイントを解説します。
四国で建築・設計を行うにあたって警戒すべきは、長大な断層帯である「中央構造線断層帯」を中心とした断層群の存在です。これらの断層が地域の地質構造に与える影響は、地震時の揺れだけにとどまりません。
中央構造線断層帯は、愛媛県から徳島県にかけて四国北縁を東西に貫く断層帯です。地震調査研究推進本部の評価によれば、特に愛媛県から徳島県に延びる区間は活動度が高く、将来的にマグニチュード8クラスの巨大地震が発生する可能性が指摘されています(※1)。
香川県においても、中央構造線本体とは別に、讃岐山脈の北縁に沿って「長尾断層帯」などが存在し、地域固有の直下型地震リスクを形成しています。そのため四国で建築を行う際は単なるハザードマップ上の確認だけでなく、地層そのものが変位を繰り返してきた歴史を持つ場所であることを再認識する必要があります。
活断層が動く際、その摩擦や圧力によって周辺の岩盤や土層は激しく粉砕されます。これを「破砕帯」と呼びますが、断層本体から数十メートルから数百メートルの範囲にわたって、地盤が著しくもろくなっているケースがあります。
愛媛や徳島の山際、香川の山麓部などは、地層の連続性が途切れていたり、局所的に軟弱な粘土層が介在していたりする箇所も一部あり、建築後の不同沈下リスクを高める要因となります。地表に明確な断層の痕跡(断層線)が見えない場合でも、地下深部での地殻変動の影響により、周囲とは異なる複雑な地層構成になっている可能性がある点に留意が必要です。
断層周辺での建築において、慎重に対応すべきが「法規制の遵守」です。日本における建築規制は、国が定める基準と、自治体が独自に定める条例の二段構えとなっている点に注意しましょう。
現行の建築基準法においては、活断層の直上に建築することを一律に禁止する明文規定はありません。法が求めるのはあくまで「地盤の支持力に応じた構造」であり、断層変位そのものによる建築物の破壊を直接的に規制しているわけではないのが実情です。
愛媛や香川を含む各自治体ではハザードマップによる啓発が強化されており、さらに徳島県のように条例で直接的な制限を課す自治体も存在します。実際の建築計画においては、都市計画法に基づく開発許可基準等を確認するだけでなく、その土地に特有の「上乗せ条例」がないかを調査することが不可欠です。
四国エリアにおいて厳格な法規制の一つが、徳島県の「徳島県南海トラフ巨大地震等に係る震災に強い社会づくり条例」です。本条例では、中央構造線活断層帯周辺を「特定活断層調査区域」として指定しています。
区域内で「多数の人が利用する建築物」や「危険物貯蔵施設」などの特定施設を新築・改築・移転する場合、事業者は事前に「活断層の位置の調査」を行うことが義務付けられています。調査の結果、活断層の直上であることが判明した場合は、その箇所を避けて配置を検討しなければなりません。愛媛や香川で建築を行う際も、こうした厳格な基準をひとつの「リスク管理のベンチマーク」として捉え、自主的な調査を検討することが推奨されます。
断層帯近傍での建築においては、標準的な調査手法だけでは不十分な場合があります。エビデンスに基づいた設計を行うためには、多角的な地盤評価が欠かせません。
戸建住宅等で一般的に用いられるSWS試験(※スクリューウエイト貫入試験)は、コストや作業能率に優れ、地表面に近い支持力の判定には有効です。
しかし、断層帯周辺などでより詳細な地盤の状況を把握する必要がある場合は、機械ボーリングによって実際に孔を掘削し、地盤の硬さの測定や支持層の確認を行うボーリング調査(標準貫入試験)を適宜組み合わせて実施することが重要です。
これにより、破砕された岩盤の有無や、過去の変動を示唆する堆積構造の乱れを確認でき、実態に即した地盤評価が可能となります。
活断層周辺の地盤判定は専門性が高く、自社判断だけで進めるのはリスクが伴います。地質学的な知見を持つ地盤調査会社や、専門のコンサルタントと早期に連携し、その土地に適した調査計画を立案してもらうことが不可欠です。
詳細な調査を実施し、その結果を記録として残しておくことは、万が一の際の企業としての説明責任(アカウンタビリティ)を果たす上でも重要なプロセスとなります。
施主とのトラブルを未然に防ぐため、地盤保証に関する正確な知識を提供することも大切な役割です。
一般に建設会社が加入する「地盤保証」は、地盤の瑕疵(判断ミスや設計ミス)に起因する不同沈下をカバーするものです。ここで注意すべきは、地震などの天災によって生じた損害は、基本的に「免責事項(保証対象外)」となる点です。
断層の活動による地面のズレ(断層変位)や、地震の揺れによる液状化・地割れは、(特約を付帯した場合を除き)地盤保証の範囲外となるのが通例です。これらは混同されやすいため、地盤保証があれば地震が起きても安心であるという誤解を解いておく必要があります。
重要事項説明や契約前の段階で、「断層に近いエリアであることのリスク」と「保証の限界」を明確に伝えることが、将来の紛争を回避する鍵となります。「法律を守って調査と対策を行っていますが、地震による地殻変動そのものを防ぐことはできません」という客観的な事実を、誠実に共有する姿勢が求められます。
四国の活断層周辺での建築は、愛媛・香川・徳島・高知いずれにおいても断層リスクを踏まえた配慮が求められます。徳島県の条例のような法規制の遵守はもちろん、地域の地質特性を深く掘り下げた調査の実施や、保証制度の正確な周知といった積み重ねが顧客からの信頼を築き、企業としてのリスクを最小化することに繋がります。
地域の地質リスクを正しく理解し、エビデンスに基づいた堅実な建築計画を推進していきましょう。