最近、四国の松山市に所在する地盤調査会社が地盤調査報告書のデータを改ざんし、不正行為をした事件が世間の注目を集めました。
地盤調査に対する信頼を失わせる重大な問題といえるでしょう。
実は地盤調査報告書で不正が行われると、その報告書をもとに建物を設計した建築士にも法的な責任が発生する可能性があります。
今回は地盤調査で不正があった場合の建築士の責任について、解説します。
【元弁護士・ライター】 保有資格:司法試験合格、簿記2級
京大法学部在学中に司法試験に合格。10年にわたる弁護士実務経験とライティングスキルを活かして不動産メディアや法律メディアで精力的に執筆中。不動産については売買、賃貸、契約違反、任意売却、投資、離婚、相続、解体や許認可等、あらゆる分野に精通している。弁護士からの信頼も厚く多くの法律事務所サイトの記事も手掛けており、監修案件も多数。You Tubeによる法律情報の発信や弁護士志望者のサポート活動も行っている。
建築士が建物を設計する際には、事前の地盤調査が重要です。
地盤調査会社に調査を依頼し、その報告書をもとにして建物を設計する方が多いでしょう。
しかし依頼先の地盤調査会社が不正を行ってデータ改ざんしていたら、建築士も気づかないうちに建築基準法違反の建物を設計してしまう可能性があります。
そういったケースでは、建築士にも責任が発生する可能性があるのでくれぐれも注意しなければなりません。
地盤調査会社と建築士が結託していた場合だけではなく、不注意で気づかなかった場合にも損害賠償を始めとする法的義務が生じるリスクがあります。
地盤調査会社が報告書で不正をはたらいたときに成立しうる建築士の責任には以下の2種類があります。
契約不適合責任は、請負の完成物や売買の目的物が契約目的に合致しないときに請負人や売主が負う責任です。
旧民法では「瑕疵担保責任」といわれていましたが、民法改正によって契約不適合責任へと変わりました。
地盤調査に不備があって法令違反の設計をしてしまったら、建築士は契約通りの仕事をしたとはいえません。建築士が発注者と直接契約していた場合、発注者から契約不適合責任を追求される可能性があります。
契約不適合責任の内容は以下のとおりです。
依頼を受けて違法建築物を設計してしまったら、発注者からは解除や損害賠償請求をされる可能性が高いでしょう。
2つ目は不法行為責任です。
不法行為責任とは、違法行為によって他人へ与えた損害についての賠償義務です。
契約関係がない相手であっても不法行為責任は発生します。
建築士の場合、直接建物の発注者と契約していないケースも珍しくありません。
そういった状況でも地盤調査会社が不正をはたらいて建築士が違法建築物を設計すると、発注者は建築士へ不法行為責任を追求できる可能性があります。
契約不適合責任にもとづく損害賠償請求でも不法行為にもとづく損害賠償請求であっても、加害者側に「違法行為」や「故意過失」が必要です。
建築士が建築基準法違反の建物を設計してしまったら、基本的に違法行為があったといえます。
不正な地盤調査結果報告書にもとづいて建築士が違法な建物を建築設計し、故意過失が認められる状況をパターン別に説明します。
建築士が地盤調査会社と結託し、地盤調査会社の不正を見逃していた場合には当然故意があるといえます。
建築士は損害賠償をしなければなりません。
自ら積極的に不正に関与しなくても、地盤調査会社による不正に気づきながら放置している場合にも建築士には故意や重過失が認められるでしょう。
やはり損害賠償義務が発生します。
建築士が地盤調査会社の不正にまったく気づいていなかったとしても、責任が発生するケースがあります。
建築士は建築設計の専門家として高い責任を負うので、地盤の軟弱性について慎重に検討しなければなりません。それにもかかわらず安易に調査結果を信用して違法建築にかかわったら、建築士には過失が認められる可能性があるのです。
地盤調査会社が工法を提案した場合であっても、最終的に設計図書へ記名押印して責任を負うのは建築士です。
地盤調査会社自身が記名押印していない場合、地盤調査会社は建築士法上の責任を負わないという裁判例もあります(浦和地裁越谷支部 平成11年9月30日)。
このように、地盤調査会社が不正を行った場合であっても最終的な責任が建築士に及ぶ可能性が高い点には十分注意する必要があります。
建築士が適正な設計を行うために地盤調査は必須です。地盤調査を怠った結果、不等沈下が起こって建て替えが必要になった場合などには建築士に責任が及びます(和歌山地裁平成20年6月11日、大阪地裁昭和62年2月18日判決など)。
地盤調査会社が不正を行うと、建築士にも責任が発生して大きなトラブルに巻き込まれる危険性があります。地盤調査は適正に業務を行う調査会社へ依頼しましょう。