2005年11月、姉歯建築設計事務所が構造計算を行ったマンションやホテルなどで、構造計算書が偽装されていた問題が明らかになりました。一般に「姉歯事件」「耐震偽装事件」などとも呼ばれていますが、国土交通省では「構造計算書偽装問題」として公表・対応しています。
国土交通省は2005年11月17日、指定確認検査機関から情報提供を受け、姉歯建築設計事務所が関わった20件の建築物について、構造計算書が偽造されていた可能性があると公表しました。その後、姉歯元一級建築士が関与した物件について全国的に調査が進められ、2006年2月20日時点では調査対象204件のうち97件で偽装が確認されています。
この問題が大きな社会問題となったのは、建物の地震に対する安全性を確認するための重要な設計図書が偽装されていたことに加え、一部の建物では建築確認などの段階で問題が是正されないまま竣工していたためです。
問題を受けて、建築確認・検査制度や建築士制度は大きく見直され、構造計算適合性判定や構造設計一級建築士制度など、重要な構造データを複数の立場から確認する仕組みが整備されました。
ここでは、構造計算書偽装問題の内容や発覚した経緯、事件後に行われた制度改正を整理するとともに、地盤調査にも共通する「重要なデータを第三者が確認できる仕組み」の必要性について解説します。
構造計算書偽装問題は、姉歯元一級建築士が構造計算を担当した複数のマンションやホテルなどで、建物の構造安全性を確認するための構造計算書が偽装されていた問題です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 問題発覚 | 2005年 |
| 関係者 | 姉歯秀次元一級建築士 |
| 主な問題 | 構造計算書の偽装 |
| 2005年11月17日の当初公表 | 20件で偽造の可能性を公表 |
| 2006年2月20日時点 | 調査対象204件のうち97件で偽装を確認 |
| 主な用途 | マンション・ホテルなど |
| 事件後の主な対応 | 建築確認・検査制度、建築士制度等の見直し |
2005年11月17日の公表時点では20件が中心でしたが、その後、姉歯元建築士が関与した過去の建築物まで対象を広げて調査が行われたことで、偽装が確認された物件数は増加しました。
今回の問題で偽装されたのは、建築物の構造安全性を確認するための「構造計算書」です。
建物には、建物そのものの重さだけでなく、人や家具などの荷重、地震、風など、さまざまな力が加わります。
構造計算では、こうした力に対して柱や梁、壁、基礎などが必要な強度を確保できているかを計算します。構造計算書は、その計算条件や結果をまとめた設計図書です。
特に鉄筋コンクリート造や鉄骨造など一定の建築物では、建物の安全性を確認するうえで構造計算が重要な役割を果たします。
国土交通省は2005年12月5日、姉歯元一級建築士を建築基準法違反の件で警視庁へ告発しました。
国土交通省の公表によると、姉歯元建築士は建築物の構造計算を行う際、国土交通大臣認定の構造計算プログラムから出力されたデータを偽装し、設計図書である構造計算書を作成していました。
その結果、建築基準法第20条が求める構造耐力に関する基準に違反する建築物が建築されることになったとされています。
単なる入力ミスや書類上の記載誤りではなく、建物の構造安全性を確認するための計算結果そのものが偽装されていた点が、この問題の重大なポイントです。
構造計算書の偽装は、指定確認検査機関であるイーホームズが、過去に建築確認を行った物件について構造計算書に問題がある可能性を確認し、国土交通省や特定行政庁へ報告したことから明らかになりました。
イーホームズから、工事中・未着工の4件について構造計算書の偽装の可能性があるとの報告が行われました。
竣工済みの建築物を含む13件が追加で報告されました。
さらに3件が報告され、イーホームズが報告した対象は合計20件となりました。
国土交通省が、姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造の可能性と、その時点で判明していた事実関係を公表しました。
また、別の指定確認検査機関が建築確認を行った1件についても同様の偽造の疑いが確認され、当時は合計21件について優先的に安全性の確認が進められました。
問題発覚後は、姉歯元建築士が過去に構造計算を担当した物件についても調査が行われました。
2006年2月20日時点では、調査対象となった204件のうち97件で偽装が確認され、88件は偽装なし、その他は計画中止や対象外などと整理されています。
一つの建物で問題が見つかった場合に、その建物だけを調べるのではなく、同じ担当者が関与した過去の案件まで遡って確認する必要性を示した事例でもあります。
この問題が大きく取り上げられた背景には、構造計算書が人の生命や建築物の安全性に直接関わる重要な資料であったことがあります。
構造計算は、地震や風などの力に対して建物が必要な安全性を確保できるかを判断するものです。
その計算結果が偽装されれば、本来必要な構造耐力を持たない建築物が設計・施工されるおそれがあります。
国土交通省は問題発覚後、竣工済み物件について構造計算の再確認を進め、耐震性に問題がある可能性が高い建築物について、居住者などの安全確保を優先して対応しました。
2005年11月17日の国土交通省公表では、偽造の可能性が指摘された21件のうち14件について、設計者等によるチェックや指定確認検査機関の確認検査、施工段階で問題が是正されず、そのまま竣工している懸念があるとされました。
このため、偽装を行った建築士個人だけではなく、「専門家が作成した構造計算書の不正を、建築確認の段階でどのように見抜くか」という制度上の課題も大きく注目されました。
問題が発覚した時点で、既に竣工し、居住者が生活しているマンションや利用中のホテルも含まれていました。
そのため、単に設計図書を修正すれば済む問題ではなく、既存建物の安全性確認や利用者への説明、必要に応じた是正などが必要となり、社会的な影響が拡大しました。
建築確認とは、建築物の計画が建築基準法などの関係規定に適合しているかを、工事着手前に確認する手続きです。
建築主事や指定確認検査機関が、用途や敷地、構造、防火など、建築基準関係規定への適合性を確認します。
構造計算書偽装問題では、建築確認等を経て竣工した建物の中にも偽装が含まれていたことから、構造計算のように高度な専門知識が必要となる資料をどのように審査するかが改めて問題となりました。
その結果、事件後の法改正では、一定の構造計算を必要とする建築物について、通常の建築確認に加え、構造の専門的な審査を行う仕組みが導入されることになります。
構造計算書偽装問題を受け、2006年には「建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律」が成立しました。
改正建築基準法の主要部分は2007年6月20日に施行され、建築確認・検査制度の厳格化などが行われました。
大きな変更の一つが「構造計算適合性判定」の導入です。
一定の構造計算に係る建築物については、建築主事や指定確認検査機関による建築確認だけでなく、構造計算が基準に適合しているかについて専門的な判定を受ける仕組みが設けられました。
構造計算書を作成した設計者と、通常の建築確認を行う側だけで完結させず、構造計算について別の専門的な確認を組み込むことで、審査の信頼性を高める仕組みです。
法改正では、民間の指定確認検査機関についても、指定時の欠格事由の拡充や、特定行政庁による立入検査など、監督を強化する措置が講じられました。
建築確認を民間機関が行う場合でも、適正な審査が行われているかを監督できる仕組みが強化されています。
建築物の構造耐力に関する規定などに違反した建築物の設計者等についても、罰則が強化されました。
問題発覚当時、国土交通省が姉歯元建築士を告発した際に示されていた罰則と比較しても、構造安全性に関する法令違反をより重く扱う方向へ制度が見直されています。
構造計算書偽装問題を受けた見直しは、建築確認制度だけではありません。建築士の専門性や業務体制についても見直しが行われました。
2006年の建築士法改正では、「構造設計一級建築士」制度が設けられました。
一定規模以上の建築物について、構造設計一級建築士以外の一級建築士が構造設計を行う場合は、構造設計一級建築士による構造関係規定への適合性の確認を求める仕組みです。
構造設計という専門性の高い業務について、必要な専門能力を持つ建築士が確認することで、安全性を確保する考え方が強化されました。
改正建築士法では、建築士事務所に所属する建築士について、知識や能力の維持・向上を目的とした定期講習制度も導入されました。
現在は、対象となる建築士について3年ごとの定期講習受講が義務付けられています。
建築士事務所が委託を受けた設計や工事監理業務について、再委託を制限する仕組みなども改正内容に盛り込まれました。
建築物をつくる過程では、契約した事業者と実際に設計・調査を行う事業者が異なる場合があります。発注者としても、「誰へ依頼したか」だけではなく、「実際に誰が業務を行い、誰がその成果物を確認するのか」を把握することが重要です。
構造計算書は、建物の安全性を確保するための重要な設計図書です。
国土交通省は2005年12月、構造計算プログラムの出力データを偽装して構造計算書を作成し、建築基準法第20条に違反する建築物が建築されることになったとして、姉歯元建築士を告発しています。
建築士が作成する構造計算書や設計図書は、建物の安全性を左右します。そのため、資格を持っていることだけでなく、法令や技術基準に基づいて適切な設計を行うことが求められます。
建築確認は建物の安全性を確保するための重要な制度ですが、構造計算書偽装問題では、建築確認等の過程で偽装が是正されないまま竣工した建築物がありました。
その後に構造計算適合性判定などの制度が導入されたことからも、重要な設計情報を一つの主体だけに依存せず、複数の立場から確認することが重要だとわかります。
ただし、建築物で問題が発生した場合に、建築主や建設会社、建築士、確認検査機関などの誰がどの責任を負うかは、契約内容やそれぞれの役割、具体的な行為などによって異なります。一律に判断することはできません。
構造計算書偽装問題は構造設計に関する事件ですが、地盤調査にも共通する教訓があります。
姉歯元建築士は一級建築士の資格を持つ専門家でした。しかし、その専門家自身が作成した構造計算書で偽装が行われていました。
ここから学ぶべきなのは「専門家を信用してはいけない」ということではありません。建物の安全性を左右する重要なデータについては、資格や肩書だけに依存せず、別の立場から内容を確認できる仕組みを整えることが重要だという点です。
地盤調査は、建物を建てる前の地盤の状態を確認するものです。建築工事が進み、基礎や建物が完成すれば、当時どの地点でどのような調査が行われたかを現場で改めて確認することは難しくなります。
そのため、地盤調査では以下のような情報を保存し、後から確認できることが重要です。
地盤調査には、構造計算適合性判定と同じ制度が一律に設けられているわけではありません。
一方で、調査結果に疑問がある場合に第三者へ地盤解析を依頼したり、地盤セカンドオピニオンを利用したりするなど、別の専門家から意見を得る方法はあります。
また、地盤調査会社と地盤改良会社の関係を確認し、調査結果と工事提案を同じ会社だけで完結させてよいのか検討することも、発注者にとって重要な視点です。
構造計算書偽装問題のような不正を発注者がすべて事前に見抜くことは困難です。しかし、重要なデータがどのように作られ、確認されているのかを事前に確認することで、会社選びや契約時の判断材料を増やすことはできます。
会社の知名度や担当者の資格だけで判断するのではなく、「安全性を裏付けるデータをどのように確認しているか」という管理体制まで確認することが重要です。
国土交通省は現在も「構造計算書偽装問題とその対応について」という専用ページを公開しており、当時の報道発表資料や制度改正などを確認できます。
同ページでは、姉歯元一級建築士による構造計算書の偽装があった違反物件について、すべて是正などによって違反が解消されたとの報告を特定行政庁から受けているとしています。
また、この問題を契機に導入された構造計算適合性判定や、建築士の専門性・業務体制に関する制度は、その後の制度改正を経ながら現在の建築行政にも引き継がれています。
2005年に発覚した構造計算書偽装問題では、姉歯元一級建築士が構造計算プログラムの出力データを偽装し、建物の構造安全性を判断するための構造計算書を作成していました。
問題発覚当初は20件について偽造の可能性が公表され、その後調査対象が拡大し、2006年2月20日時点では対象204件のうち97件で偽装が確認されています。
この問題を受けて、建築確認・検査制度や建築士制度が見直され、一定の建築物について構造計算適合性判定を求める仕組みや、構造設計一級建築士による確認などが導入されました。
この事例から学べるのは、専門家を無条件に疑うことではありません。建物の安全性に関わる重要なデータだからこそ、作成した人とは異なる立場から確認したり、後から原データを検証できる仕組みを整えたりすることが重要です。
地盤調査でも同様に、会社の知名度や資格だけで判断するのではなく、原データが保存されているか、報告書の確認体制があるか、調査結果を第三者が検証できるかなど、「透明性」を確認して依頼先を選びましょう。